業界選び。成長と安定と斜陽の視点で事例解説

会社員の給料を左右する業界選び

会社員として生きていくのであれば、自分自身という人的資本を「どこ」に置くのかが非常に重要です。何をするかより、どこにいるかで給料が決まってきます。成長している業界のほうが給料が高く、上昇しやすいのは言わずもがな。ただ、ワークライフバランスも意識したほどほどのキャリアにおいては、メリットやデメリットを鑑みながら、冷静な視点で業界を見定めるべきでしょう。成長産業ではそれだけ仕事量も増えていると捉えられますし、お金の問題は当然大事ですが、バランスをとりながら判断していくべきです。本記事では、世間一般的な成長・斜陽・安定すべての業界を渡り歩いた筆者が、実体験をもとにそれぞれの業界の特徴を述べ、選び方のヒントを提示したいと思います。

成長業界~ITを例に~

筆者が大学卒業後に入社したのは、業務システムを開発・販売するITベンダーです。メガベンチャーとして採用数も多く、イケイケな雰囲気でした。今でもDXという言葉があるように、ITは成長産業と聞いて真っ先に浮かぶものと言えそうです。この業界のメリットは、やはり給料の良さ。当たり前ですが、会社が儲かっていれば、給料は高くなりやすいです。また、仕事量が多く人手不足が起こりやすいので、求人は多くなります。辞めても次の仕事は見つかりやすいでしょう。IT業界で転職が多いのはその点も大きいと言えます。デメリットは、業務量の多さでしょうか。その一方、フレックスや在宅といった制度が整っている企業も多いとは思います。私の所属していた会社もフレックスでしたが、実態としては客先訪問や会議で自由な働き方とは程遠かったです。この辺は給料とのトレードオフですね。個人的には、キャリア初期の20代のうちに経験しておくといいのが成長業界だと思います。ITについていえば、どの業界でも通用する普遍的なスキルが手に入りやすいですし、若手も多くフラットな雰囲気だったことも魅力でした。BtoBのクライアントワークだったため、システム導入を通じて他業界のことを知れたのもいい経験だったと思います。ちなみに、私がいた会社は後々業績が悪くなり、社員の給料にも影響が出たのですが、これも企業間の競争が激しい成長業界ならではかもしれません。業界というよりも、個社によるものですが、欠かせない視点です。業界トップ企業を目指すことが有効な対策でしょうか。

斜陽業界~出版を例に~

次に選んだ業界が出版でした。ITベンダーで忙しく過ごす中、業績不振で評価も振るわず自分を見つめなおした時、学生時代のフリーペーパー制作の活動が楽しかったことを思い出しました。仕事にしたいと思って、雑誌編集の仕事にチャレンジしたのです。出版、とくに雑誌といえば出版不況のさなかにある斜陽業界。給料はほぼ上がりませんでした。自分が担当する雑誌の売れ行きもなかなか思わしくないので、「そりゃそうだよな」という感覚でした。Webや動画といった新しいことにも挑戦しましたが、業界全体が低調な中で成果を出すのはとても難しかったです。イノベーションを起こせるような人材なら、斜陽業界も苦ではないのかもしれません。私自身、5年ほどで辞めたのは、業界の閉そく感というのが大きな理由でした。ただ、ほどほどのキャリアという意味では、いいこともたくさんあった気がします。まずは、好きな仕事ができていたということ。企画、取材、誌面制作と、自分の考えを形にできる、手触り感のある面白い仕事でした。企画力や進行管理といったスキルも身についたと思います。業界が斜陽だったとしても、「好き」という強いエネルギーがあるなら、大いにアリな選択肢だと思います。ただ、仕事はお金のため、生活のためという側面も大きいわけで、葛藤が生じてしまうのでしょう。

安定業界~インフラを例に~

私自身そんな葛藤のなかで子どもの誕生という大きなイベントもあり、金銭面・柔軟な勤務制度を求めてインフラ系の大手子会社・企画職にジョブチェンジしました。生活と密接なインフラ産業なので、それなりの昇給もあって給料は安定しています。在宅も増えて、転職の目的はある程度達成できていると言えそうです。でも、仕事はそこまで楽しくありません。仕事なので割り切りも必要ですし、ちょっとした楽しさを見つけることも意識していますが、インフラという安定業界ならではの理由もあって、マニュアル主義・意思決定の遅さ、それらに伴う風通しの悪さを感じます。正直ストレスは溜まりやすい環境です。安定業界はいわゆるJTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー=伝統的な日本企業)が多いので、古い慣習・無駄なプロセスに悩むことになるかもしれません。ある程度の無駄は必要悪として許容し、ほどほどに働くのが向いている業界とも言えるでしょう。こんな人間が日本の国際競争力低下を招いているとは感じるのですが、知ったこっちゃありません。国や企業のトップに考えてもらいましょう。

まとめ

最後は話が逸れてしまいましたが、まとめると、当然給料面では成長・安定であることに越したはないです。特にやりたいことがないのであれば、成長・安定から比較的ワークライフバランスも担保できる企業を探すのがいいでしょう。一方、好きなことを中心に楽しく働く、勤務時間のすべてを費やせるわけでなくとも好きなことの割合を高く保つという意味では、業界の成長性を考えすぎる必要はないです。「こんな考え方もあるんだな」と思いながら、自分なりのほどほどを実現できるキャリアを歩んでいただければと思います。